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薬物治療の個別最適化

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薬物治療の個別最適化

[入院患者]高齢者総合機能評価(CGA)を用いて、薬剤起因性老年症候群を把握しポリファーマシーを解決した症例-三豊総合病院

薬物治療の個別最適化

本シリーズでは、薬物治療の個別最適化を行った事例を紹介していきます。

[入院患者]高齢者総合機能評価(CGA)を用いて、薬剤起因性老年症候群を把握しポリファーマシーを解決した症例-三豊総合病院

今回の症例

慢性心不全や腰痛症により複数の病院(当院、A整形外科医院、Bクリニック)にて加療中の85歳・女性の患者さんが、全身倦怠感・労作時の息切れ・食思低下にて当院に入院されました。

精査の結果、心不全の増悪として入院治療が開始となり、1週間ほどで心不全の状態は落ち着きました。しかし、食事摂取量は増加せず、また、日中に筋力低下に起因すると考えられるふらつきが生じているようでした。

入院時処方)

(当院処方)
ビソプロロールフマル酸塩錠0.625 mg 1回1錠(1日1錠)
ニフェジピンCR錠40 mg 1回1錠(1日1錠)
カンデサルタン シレキセチル錠8 mg 1回1錠(1日1錠)
アゾセミド錠30 mg 1回0.5錠(1日0.5錠)
 1日1回 朝食後
(A整形外科医院処方)
エルデカルシトールカプセル0.75 μg 1回1カプセル(1日1カプセル)
 1日1回 夕食後
ロキソプロフェンナトリウム錠60 mg 1回1錠(1日2錠)
 1日2回 朝夕食後
テプレノンカプセル50 mg 1回1カプセル(1日2カプセル)
 1日2回 朝夕食後
チザニジン塩酸塩錠1 mg 1回1錠(1日3錠)
 1日3回 毎食後
(Bクリニック処方)
オロパタジン塩酸塩OD錠5 mg 1回1錠(1日2錠)
 1日2回 朝夕食後
ブロチゾラム錠0.25 mg 1回1錠(1日1錠)
 1日1回 就寝前

入院1週間後の検査値等)
 身長150 cm、体重48 kg(健常時は51 kg)
 血圧122/82 mmHg、心拍数84回/min
 WBC 88×102/μL、Hb 11.5 g/dL、PLT 15×104/μL、
 AST 19 IU/L、ALT 18 IU/L、CRP 0.5 mg/dL、
 K 4.4 mEq/L、Na 145 mEq/dL、Ca 8.5 mg/dL、
 CLcr 42.3 mL/min、TP 6.3 g/dL、Alb 3.2 g/dL

薬剤師が解決したプロブレム

#1 薬剤起因性老年症候群の疑い
#2 ポリファーマシーの疑い

入院時の面談では、自宅において夫と二人暮らしをしており、「早く退院したいが、自身の体調に不安が大きい」とのことでした。ADLは自立しているようでしたが、認知機能については低下傾向が見られ、薬剤の飲み忘れも含めた物忘れが進んでいるとのことでした。また、入院の3か月前から食事の飲み込みにくさを感じており、その頃から食事摂取量は減少していたとうかがいました。

今回、薬剤起因性老年症候群の可能性を考慮し、高齢者総合機能評価(CGA)1)を実施し、総合的な情報を活用したポリファーマシー対策を実施することにしました。CGAは医師、薬剤師のみならず、理学療法士、作業療法士、言語聴覚士、管理栄養士、看護師など、多職種が協働して実施し、身体機能を含めた総合的な情報を病棟カンファレンスで共有することにしました。

理学療法士の評価によると、基本的ADLBarthel Index:90点)は自立しており、腰痛症による疼痛は生じていないが、歩行による移動に問題があることがわかりました。
作業療法士が評価した認知機能MMSE(Mini Mental State Examination):25点〕では軽度認知障害(MCI)の可能性が示唆されました。
言語聴覚士が評価した嚥下機能FOIS(Functional Oral Intake Scale):レベル6〕では一部の食形態(水分が少なくパサパサしている)の飲み込みが悪く、口渇が生じていることもわかりました。
管理栄養士による低栄養診断基準〔GLIM(Global Leadership Initiative on Malnutrition)基準〕に基づく評価では、中等度の低栄養であることが示されました。
看護師が実施した転倒リスク評価(転倒転落アセスメントスコアシート:危険度Ⅲ)では、転倒による骨折のリスクが高い状態にあることが示されました。

薬剤師からは『高齢者の安全な薬物療法ガイドライン2015』2)を活用し、以下の薬剤が高齢者の身体機能に与える影響とリスクについて情報共有しました。

  • 筋弛緩作用のある薬剤(チザニジン塩酸塩、ブロチゾラム):嚥下機能の低下やふらつきによる転倒リスクに関連している可能性あり。
  • 抗コリン作用のある薬剤(チザニジン塩酸塩、ブロチゾラム、オロパタジン塩酸塩):口渇による嚥下機能の低下や認知機能の低下に関連している可能性あり。

医師を含めた多職種で協議を行い、筋弛緩作用のあるチザニジン塩酸塩については疼痛も生じていないことから一旦中止、ブロチゾラムについては認知機能低下や筋弛緩作用の少ないレンボレキサント(オレキシン受容体拮抗薬)に変更することになりました。また、抗コリン作用を有するオロパタジン塩酸塩についても口渇や認知機能低下を考慮し、屯用への減量を実施することとなりました。そのほか、腎機能を考慮したロキソプロフェンナトリウムの屯用への減量や、服薬アドヒアランスの向上を目的としたエルデカルシトールの用法変更を行いました。

退院前のカンファレンスでは、言語聴覚士と管理栄養士から「嚥下機能が向上し、食事摂取量が健常時まで回復した」との報告がありました。
理学療法士からは「歩行時のふらつきが軽減しており、薬剤中止・減量後も疼痛は生じていない」との報告がありました。
認知機能については軽度認知障害(MCI)が疑われており、ご家族に服用状況の確認を依頼し、定期服用薬を1日1回朝食後に統一し、一包化対応を実施しました。

今回、CGAを活用した多職種による処方適正化介入を行い、疾患や薬剤の観点のみならず、高齢者の身体機能を含めた総合的評価を基に多角的な介入を実施しました。退院後のADL及びQOLの向上に寄与できたと考えています。

退院時処方:入院から3週間後) *青字は薬剤師の処方提案による変更箇所

(当院処方)
ビソプロロールフマル酸塩錠0.625 mg 1回2錠(1日2錠)
ニフェジピンCR錠40 mg 1回1錠(1日1錠)
カンデサルタン シレキセチル錠8 mg 1回1錠(1日1錠)
アゾセミド錠30 mg 1回1錠(1日1錠)
 1日1回 朝食後
(A整形外科医院処方より変更)
エルデカルシトールカプセル0.75 μg 1回1カプセル(1日1カプセル)
 1日1回 朝食後
ロキソプロフェンナトリウム錠60 mg 1回1錠
 疼痛時
(Bクリニック処方より変更)
オロパタジン塩酸塩OD錠5 mg 1回1錠
 アレルギー症状時
レンボレキサント錠5 mg 1回1錠(1日1錠)
 1日1回 就寝前
    *入院時処方からの変更内容
  • ・ビソプロロールフマル酸塩錠0.625 mgは1錠⇒2錠へ増量(心不全治療)
  • ・アゾセミド錠30 mgは0.5錠⇒1錠へ増量(心不全治療)
  • ・エルデカルシトールカプセル0.75 μgは夕食後⇒朝食後へ変更(用法の簡素化)
  • ・ロキソプロフェンナトリウム錠60 mgは2錠定期服用⇒1錠屯用へ減量(疼痛軽減、腎機能考慮)
  • ・テプレノンカプセル50 mg⇒中止(NSAIDs減量を考慮)
  • ・チザニジン塩酸塩錠1 mg⇒中止(疼痛軽減、嚥下機能低下、筋力低下によるふらつきを考慮)
  • ・オロパタジン塩酸塩OD錠5 mgは2錠定期服用⇒1錠屯用へ減量(抗コリン作用による口渇に起因した嚥下機能低下、認知機能低下を考慮)
  • ・ブロチゾラム錠0.25 mg⇒レンボレキサント錠5 mgへ変更(ベンゾジアゼピン系による筋弛緩作用、認知機能障害やせん妄、転倒のリスクを考慮)

今回の薬歴

#1 薬剤起因性老年症候群の疑い
  • S 薬剤の飲み忘れも含めた物忘れが進んできている。入院する3か月前くらいから食事が飲み込みにくく、食事量は減っていた。
  • O 基本的ADL(Barthel Index:90点)は自立、歩行による移動に問題があり。
    認知機能(MMSE:25点)は軽度認知障害(MCI)の可能性あり。
    嚥下機能(FOIS:レベル6)は一部の食形態の飲み込みが悪く、口渇あり。
    栄養状態(GLIM基準)は、中等度の低栄養。
    転倒リスク(転倒転落アセスメントスコアシート:危険度Ⅲ)は高い。
  • A 薬剤起因性老年症候群の可能性あり。
  • P 『高齢者の安全な薬物療法ガイドライン2015』を活用した、介入対象薬剤の検討。
#2 ポリファーマシーの疑い
  • S 夫と二人暮らしであり、早く退院していつもどおりの生活がしたい。薬が原因で飲み込みにくさやふらつきが生じているのなら薬の調整をしてほしい。
  • O 筋弛緩作用のある薬剤(チザニジン塩酸塩、ブロチゾラム)を服用中。
    抗コリン作用のある薬剤(チザニジン塩酸塩、ブロチゾラム、オロパタジン塩酸塩)を服用中。
    腰痛症による疼痛はなし、服薬忘れあり、腎機能やや低下あり。
  • A 嚥下機能の低下、ふらつきについては筋弛緩作用のある薬剤が影響している可能性あり。認知機能低下や口渇については抗コリン作用のある薬剤が影響している可能性あり。腎機能を考慮したロキソプロフェンナトリウムの減量、服薬アドヒアランスの向上を目的とした用法変更及び一包化対応を検討。
  • P チザニジン塩酸塩は中止、ブロチゾラム⇒レンボレキサントへ変更、オロパタジン塩酸塩及びロキソプロフェンナトリウムについては屯用へ減量、用法の簡素化及び一包化対応。

実務実習生の疑問に答える

Q1 高齢者総合機能評価(CGA)とは何ですか?

高齢者総合機能評価(CGA:Comprehensive Geriatric Assessment)は、高齢者の健康状態を包括的かつ多面的に評価する方法です。医学的、心理的、社会的要因を総合的に検討することで、個別化された治療やケアの計画に役立てられます。CGAは、高齢者ケアの質を向上させる重要な手法として、医療・福祉分野で幅広く活用されています。

CGAでは、日常生活動作(ADL)、認知機能、栄養状態、嚥下機能、社会的背景など、さまざまな指標を用いて高齢者を評価します。これにより、個々の患者に最適な薬物治療やケアを検討することが可能になります。特に高齢者では、ポリファーマシー対策が重要であり、多職種が協力してCGAを活用した介入を行うことが求められています。

Q2 薬剤起因性老年症候群とは何ですか?

薬剤起因性老年症候群(drug-induced geriatric syndromes)は、高齢者において特定の薬剤の使用が原因となり、老年症候群(geriatric syndromes)とよばれる多面的な健康問題を引き起こす状態をさします。老年症候群は、単一の疾患では説明できない高齢者特有の複雑な症状や機能障害を包括する概念であり、薬剤の影響で発症または悪化する場合があります。代表的な症状には、転倒、認知機能障害、せん妄、排尿障害、低栄養、抑うつ状態、骨折などがあげられます。

  • ●参考
  • 1) 高齢者総合機能評価(CGA)に基づく診療・ケアガイドライン2024(「高齢者総合機能評価(CGA)ガイドラインの作成研究」研究班,他編),南山堂,東京,2024.
  • 2) 高齢者の安全な薬物療法ガイドライン2015(日本老年医学会編),メジカルビュー社,東京,2015.
  • 篠永 浩(しのなが ひろし)
    三豊総合病院(香川県観音寺市豊浜町)・薬剤部。急性期から在宅医療まで幅広い地域のニーズに対応している中核拠点病院であり、薬剤部には感染、がん、栄養、緩和ケア、糖尿病、小児/婦人科、漢方などのさまざまな分野の専門薬剤師が複数在籍。多職種と協働したポリファーマシー対策や地域連携対策、高齢者施設や在宅医療の分野でも積極的な取組を行っている。薬剤師を「人材」ではなく「人財」と捉えた教育制度(新人教育や資格取得など)にも力を入れており、成長していくスタッフが一丸となり、入院・外来・地域をつなぐために活動中。
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