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薬物治療の個別最適化

[入院患者]PBPMを活用して、せん妄・転倒リスクに応じた睡眠薬調整を行った症例-沼隈病院

薬物治療の個別最適化

本シリーズでは、薬物治療の個別最適化を行った事例を紹介していきます。

[入院患者]PBPMを活用して、せん妄・転倒リスクに応じた睡眠薬調整を行った症例-沼隈病院

今回の症例

入居施設にて転倒され第11胸椎圧迫骨折を受傷された90歳・女性の患者さんが、安静・リハビリ目的のため入院となりました。

入院時に持参薬鑑別書を作成し医師より継続指示が出ました。また、せん妄リスクについて、入院時に薬剤師と看護師が協同で評価を行い、高齢・認知症・胸椎圧迫骨折急性期の疼痛・ベンゾジアゼピン系睡眠薬がリスク因子として該当するため、せん妄ハイリスクと評価しました。

住み慣れた入居施設から病院に移り、座位での疼痛のため臥床時間が長くなり、安静のための尿道留置カテーテル挿入など環境変化が重なりました。認知症のある患者さんにとって、この環境変化にすぐ適応することは容易ではなく、不穏状態となり夜間寝られない状態でした。夜中に息子に電話したり看護師に声をかけたりして家に帰ろうとする、病衣を脱ぎ捨てるなどの行動もあり、不穏状態が続きました。

入院時処方)

Rp 1トリクロルメチアジド錠1 mg 1回1錠(1日1錠)
ビベグロン錠50 mg 1回1錠(1日1錠)
 1日1回 朝食後
Rp 2カンデサルタンシレキセチル8 mg・アムロジピンベシル酸塩2.5 mg錠
1回1錠(1日1錠)
 1日1回 夕食後
Rp 3ミロガバリンベシル酸塩錠5 mg 1回2錠(1日4錠)
 1日2回 朝夕食後
Rp 4酸化マグネシウム錠500 mg1回1錠(1日3錠)
ポリカルボフィルカルシウム錠500 mg 1回1錠(1日3錠)
 1日3回 毎食後
Rp 5ゾルピデム酒石酸塩錠10 mg1回1錠(1日1錠)
センノシド錠12 mg 1回2錠(1日2錠)
 1日1回 寝る前

薬剤師が解決したプロブレム

#1 認知症患者の環境変化に伴う不眠不穏とせん妄ハイリスク状態

当院では、プロトコル「不眠・不穏時の薬物療法支援」を作成し運用しています。このプロトコルでは、入院時に看護師と薬剤師が協働でせん妄リスクを評価し、この評価に応じた指示簿を薬剤師が入力し、医師が承認します。看護師が、必要時、指示簿からレンボレキサント錠やトラゾドン塩酸塩錠を投薬し、その翌日、その効果等の評価を看護師・薬剤師で行います。これら薬剤については、服用後有効と評価し連日必要であれば、薬剤師が定期処方に追加し医師の承認を得る流れとしています。また、認知症に起因する不穏状態に対して、抑肝散を3日間追加し効果に応じて定期継続する手順も規定しています。

本症例でも、このプロトコルに基づいて、看護師・薬剤師間で情報共有し処方調整をしていきました。

夜になってもごそごそ落ち着かず眠れていないため、指示簿より「レンボレキサント錠5 mg」を連日服用しており、有効かつ翌日への持ち越し等も問題ないことから定期処方追加としました。

また、入院時の評価の際にせん妄リスク因子としてあげたベンゾジアゼピン系睡眠薬を中止する方針としました。まず、「ゾルピデム酒石酸塩錠10 mg」は、同じベンゾジアゼピン系睡眠薬でも比較的、依存性やせん妄・転倒リスクが低い「エスゾピクロン錠2 mg」に置換しました。

日中もそわそわして落ち着きがないため、「抑肝散エキス顆粒2.5 g」を1日2包・分2(朝夕食後)で3日間追加し、効果を見ました。有効であったため当面抑肝散を定期処方に加え、少しずつ穏やかになる時間も増えました。

しかし、「レンボレキサント錠5 mg」の定期処方追加後も夜間は時々寝られずごそごそしていることがあり、その都度指示簿から「トラゾドン塩酸塩錠25 mg」を服用していました。効果良好であったため、定期処方追加し、睡眠状況の変化に合わせて50 mgまで増量しました。この間、エスゾピクロン錠は徐々に2 mg→1 mgを経て中止に至りました。「ラメルテオン錠8 mg」の追加も含めて処方調整の後、夜間の安静・睡眠が保たれるようになったため、最終的に処方を整理し効果があまり得られなかった「レンボレキサント錠5 mg」は中止しましたが、睡眠良好でした。

排便についても浣腸や摘便をして4日おきに硬い便が出る状況でしたが、プロトコル「慢性便秘症の薬物療法支援」に基づいて、薬剤師が主体的に処方調整し改善しました。

刺激性下剤は、連用による耐性も疑われ中止、血清Mgを測定し基準より高値のため酸化マグネシウム錠も減量し、最終的に中止となりました。プロトコルに基づいて処方を調整し、「エロビキシバット水和物錠5 mg」と「モビコール配合内用剤LD 4包」で排便2日おきを得られました。

退院時処方) ※青字は入院中プロトコルに基づく薬剤師の処方提案による変更箇所

Rp 1トリクロルメチアジド錠1 mg 1回1錠(1日1錠)
 1日1回 朝食後
Rp 2カンデサルタンシレキセチル8 mg・アムロジピンベシル酸塩2.5 mg錠
1回1錠(1日1錠)
 1日1回 夕食後
Rp 3エロビキシバット水和物錠5 mg 1回2錠(1日2錠)
 1日1回 夕食前
Rp 4抑肝散エキス顆粒2.5 g 1回1包(1日2包)
モビコール配合内用剤LD 1回2包(1日4包)
 1日2回 朝夕食後
Rp 5トラゾドン塩酸塩錠50 mg 1回2錠(1日2錠)
ラメルテオン錠8 mg 1回1錠(1日1錠)
 1日1回 寝る前
  • ※入院時処方からの変更内容(赤字は薬剤師の提案により中止)
  • ・ビベグロン錠50 mgは尿道留置カテーテル挿入のため中止
  • ・ミロガバリンベシル酸塩錠5 mgは痛みの訴えなくなり中止
  • 酸化マグネシウム錠500 mgは血清Mg高値のため徐々に減量・中止し他剤に変更
  • ・ポリカルボフィルカルシウム錠500 mgは効果が見られず中止
  • ゾルピデム酒石酸塩錠10 mgはせん妄リスク因子のためエスゾピクロン錠2 mgに置換し、エスゾピクロン錠2 mgは他剤増量に伴い徐々に2 mg→1 mgを経て中止
  • センノシド錠12 mgは連用による耐性が疑われ中止

今回の薬歴

(入院7日目)
#1 認知症患者の環境変化に伴う不眠不穏とせん妄ハイリスク状態

  • S トイレに行きたい。起こして連れて行ってほしい。
    (安静のため管から排尿していることを何度も説明するが同じ訴えの繰り返し)
  • O 第11胸椎圧迫骨折→安静のため尿道留置カテーテル挿入中。
    アルツハイマー型認知症。
    せん妄リスク因子:高齢・認知症・胸椎圧迫骨折急性期の疼痛・ゾルピデム錠10 mg。
    レンボレキサント錠5 mgを指示簿から連日服用。帰宅願望強く深夜に息子に電話される等。
  • A 認知症により入院環境への変化、尿道留置カテーテル挿入による排泄環境の変化が十分理解できず不穏になられている。また夜間も不穏になり十分な睡眠がとれていない。不眠もせん妄の促進因子であり、改善を図る必要がある。また、せん妄リスク因子であるベンゾジアゼピン系睡眠薬も服用されており、退院後もせん妄・転倒を起こしにくいよう処方調整が必要か。
    ゾルピデムの急な中止は離脱症状、反跳性不眠のおそれがあり徐々に調整していく必要がある。まず、依存性の低く、せん妄・転倒リスクの低い「エスゾピクロン」への置換から調整開始か。ゾルピデム10 mgをエスゾピクロン2 mgに切り替えると、ジアゼパム換算で5 mg→4 mgとなり同程度力価での置換となる。指示簿からレンボレキサント錠5 mg服用し効果良好。翌日への持ち越しや悪夢など有害事象もない。レンボレキサント錠5 mgの定期処方追加は妥当か。
    今後も指示簿から使用される薬剤の効果判定をしながら有効な薬剤を追加しつつ、エスゾピクロンの減量~中止の調整をしていきたい。
  • P PBPM「不眠時・不穏時の薬物療法支援」を適応し処方調整していく。
    ・ゾルピデム錠10 mg→エスゾピクロン錠2 mgに置換(主治医に提案し了承され変更)
    ・レンボレキサント錠5 mg 1錠眠前の定期処方追加(プロトコルに基づき追加し主治医承認)
    OP)上記処方調整後の夜間睡眠、日中の精神症状の変化を看護師と評価し処方調整提案する。

実務実習生の疑問に答える

Q1 PBPMとは何ですか?

日本病院薬剤師会が推奨しているPBPM(Protocol Based Pharmacotherapy Management、プロトコールに基づく薬物治療管理)とは、医師と合意したプロトコルに従って薬剤師が主体的に業務実施することを意味します。平成22年4月30日厚生労働省医政局長通知(医政発0430第1号)「医療スタッフの協働・連携によるチーム医療の推進について」の中で、薬剤師を積極的に活用することが可能な業務の記載の1つとして、「薬剤の種類、投与量、投与方法、投与期間等の変更や検査のオーダについて、 医師・薬剤師等により事前に作成・合意されたプロトコールに基づき、専門的知見の活用を通じて、医師等と協同して実施すること」として示されています。薬物療法の課題解決のため、チーム医療の中で薬剤師の専門性に期待されているのです。医師ら他職種の業務負担の軽減、タスク・シフト/シェアの一環としても期待されています。

井上 卓治(いのうえ たかはる)
沼隈病院(広島県福山市沼隈町)・薬剤課。高齢化率40%を超える山間部地域の医療を担う病床数118床(一般病床60床、医療療養病床58床)、地域包括ケア病床16床のケアミックス型病院。「急性期医療から在宅医療までのトータルケアで、地域の皆さまの健康と安全な生活を支援」することをモットーとし、病院に加え、介護老人保健施設やグループホーム、サービス付き高齢者向け住宅、特別養護老人ホームなど入所施設、通所施設(デイサービス、デイケア)、居宅介護支援事業所、訪問看護ステーションなどといった関連施設が協働連携して活動している。薬剤師は「患者さまが病気を持ちながら生きる中で、薬について何でもサポートしてくれる頼もしいパートナー」となれるよう、日々患者さまに向きあっている。急性期の医療チームでの活動だけでなく、在宅チームとの連携も行い、必要に応じ在宅での居宅療養管理指導も実施している。
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https://www.shounankai.or.jp/about/department/yakuzai/
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