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薬物治療の個別最適化

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薬物治療の個別最適化

[外来患者]PBPMを活用して、通院でがん治療をしている患者の有害事象を解決した症例-小山記念病院

薬物治療の個別最適化

本シリーズでは、薬物治療の個別最適化を行った事例を紹介していきます。

[外来患者]PBPMを活用して、通院でがん治療をしている患者の有害事象を解決した症例-小山記念病院

今回の症例

地域がん診療病院である当院で結腸がんの手術を受けた65歳・男性の患者さん。2回目の術後化学療法〔CapeOX療法(カペシタビン+オキサリプラチン)〕を受けるために外来治療室に来院されました。

治療レジメン)CapeOX療法(1サイクル21日)
カペシタビン1,000 mg/m2/回1日2回day 1夕からday 15朝まで
オキサリプラチン130 mg/m2点滴静注120分day 1
前回処方)※前回CapeOX療法時の処方
ヘパリン類似物質軟膏(50 g/本)2本
 1日2回 両手掌・両足底に塗布

患者情報)
 身長175 cm、体重85 kg、体表面積2.01 m2(DuBois式)

当院では、治療期間中の有害事象発現を未然に防ぎ、また、重症化を防ぐため、薬剤師による診察前面談を実施しています。今回の患者さんに対しても、前回治療を行った後の体調変化を聴取し、生活に支障を来していないかを確認するための面談を行いました。

面談時、患者さんから、「この点滴(オキサリプラチン)をやると、針のところが痛みます。」と訴えがありました。
また、処方されていたヘパリン類似物質軟膏については、「保湿剤は1日2回塗っています。残りはまだまだありますね。」とうかがいました。

薬剤師が解決したプロブレム

#1 オキサリプラチン投与中の血管痛
#2 カペシタビンによる手足症候群の発症のおそれ

血管痛や静脈炎は、薬液のpHや浸透圧等の物理化学的性質が主な原因と考えられ、薬液と血液のそれに差があるほど、血管内皮は刺激を受けやすくなります。血液のpHは弱アルカリ性ですが、オキサリプラチンのpHは約4.0~7.01)と酸性側に傾いているため、血管を刺激して痛みや炎症を引き起こす可能性があります。

通常、オキサリプラチンは5%ブドウ糖液250 mLに希釈して投与しています。今回の患者さんは体格が大きく、オキサリプラチンの投与量が多かったことから、輸液のpHが低かった可能性があり、投与部位に疼痛を感じたものと考えました。

当院では有害事象等に対応するPBPM(Protocol Based Pharmacotherapy Management)のプロトコールを作成しています。オキサリプラチンによる血管痛の有無を評価した上で、薬剤師による支持療法等の追加・変更(今回でいえば、輸液量の増量)が可能です。そこで本症例では、オキサリプラチンの希釈液を5%ブドウ糖液500 mLに変更することで、血管痛の症状改善を図ることとしました。

また、本症例ではカペシタビンが使われていますが、カペシタビン等の抗悪性腫瘍薬により、手足の皮膚細胞が障害されることで、手足症候群は起こります。症状が進行すると、明らかな紅斑、亀裂、疼痛、水疱などが認められ、日常生活に支障が生じてきます。カペシタビンによる手足症候群は、多くの場合、投与後4ヶ月以内に初発する2)とされ、予防の基本は「保湿・保護・保清」であることが知られているため、保湿剤の適切な使用が重要です。

軟膏の使用推奨量の考え方にFTU(finger tip unit)というものがあり、患者さんが適切に塗布できているかの判断に有用です。今回の患者さんでは、前回(21日前)処方された保湿剤がまだまだ残っているとのことから、「1回使用量」が不足していることがわかりました。そのため、両手のひらと両足の裏に塗るヘパリン類似物質軟膏の量をFTUの考え方を示しながら、患者さんに説明しました。

その後は、患者さんへの面談の都度、軟膏の使用状況を確認することとし、残量が少なくなった場合にはPBPMを活用の上、薬剤師がヘパリン類似物質軟膏の処方入力支援(追加処方入力)をすることとなりました。

今回の薬歴

#1 オキサリプラチンによる血管痛

  • S 「この点滴(オキサリプラチン)をやると、針のところが痛みます。」
    オキサリプラチンに起因する血管痛の訴えあり。
  • O オキサリプラチンは5%ブドウ糖液250 mLで希釈し投与している。
  • A 輸液のpHが低いため、血管痛を惹起している可能性あり。
    オキサリプラチンの希釈液を500 mLに変更することで、症状が軽減されると予測。
  • P PBPMに基づき、2回目以降の輸液を変更した。症状改善の状況を確認する。

#2 カペシタビンによる手足症候群の発症のおそれ

  • S 「保湿剤は1日2回塗っています。残りはまだまだありますね。」
  • O 保湿剤の残量が多い。
  • A 保湿剤の使用頻度は適切だが、推奨される1回使用量から換算すると、軟膏はかなりなくなっていてよい頃である。1回使用量が不足している。
  • P FTUの考え方を示して適切な塗布量を説明。
    (参考) 両手掌;1 FTU(1回0.5 g)を1日2回、21日で50 gチューブ 約0.5本
        両足底;2 FTU(1回1.0 g)を1日2回、21日で50 gチューブ 約1.0本
    次回以降も保湿剤の残量を確認し、必要に応じてPBPMに基づく処方支援を継続する。

  • ●参考
  • 1) エルプラット🄬点滴静注液 電子添文.
  • 2) 厚生労働省:重篤副作用疾患別対応マニュアル 手足症候群,平成22年3月(令和元年9月改定).
  • 実務実習生の疑問に答える

    Q1 PBPMとは何ですか?

    PBPM(Protocol Based Pharmacotherapy Management)は、医師と薬剤師が事前に作成・合意したプロトコールに基づいて、薬剤師が薬学的知識・技能を活用して薬物治療を遂行する取組です。医師の業務負担軽減につながるだけでなく、薬剤師の専門性の発揮により、薬物治療の質の向上や安全性の確保が期待されています。

    Q2 FTUとは何ですか??

    軟膏やクリームの効果をしっかり得るために塗る分量の目安としてFTU(finger tip unit)とよばれる単位が使われています。FTUは大人の人差し指の先から第一関節まで薬を乗せた量で、チューブタイプ(口径が5 mm程度)の軟膏やクリームでは、1 FTU=約0.5 gに相当します。1 FTUは、大人の手のひら2枚分の面積に塗るのに適した分量の目安とされます。また、2 FTUは両方の足の裏に塗布する程度の量であるとされています。

    花香 淳一(はなか じゅんいち)
    小山記念病院(茨城県鹿嶋市)・薬剤部。224床の急性期病院であり、地域に根差した救急医療・がん医療等を提供している。薬剤師数は24名(2024年10月時点)と豊富であり、病棟業務のみならず、専門チームでの活動に時間を割ける環境を整えている。認定・専門薬剤師が多数在籍し、キャリアアップ支援も充実している。
    薬剤部紹介はこちら
    https://www.koyama-pharmacy.jp/
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