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薬物治療の個別最適化

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薬物治療の個別最適化

[入院患者]入院時における初回面談と多職種連携により、ポリファーマシーや銅欠乏の疑いを解決した症例-新潟市民病院

薬物治療の個別最適化

本シリーズでは、薬物治療の個別最適化を行った事例を紹介していきます。

[入院患者]入院時における初回面談と多職種連携により、ポリファーマシーや銅欠乏の疑いを解決した症例-新潟市民病院

今回の症例

かかりつけ医で透析治療を受けていた84歳・男性の患者さんが、全身倦怠感・食欲不振の原因精査と療養目的で当院に入院されました。

持参薬の確認時に当院入院歴を確認したところ、2週間前にも同様の症状があり、倦怠感・Hb低下・貧血症状のために入院(1泊2日)、輸血や点滴加療を行って退院されていたことがわかりました。(なお、前回の入院では、薬剤見直しや追加された内服薬はありませんでした。)

入院時処方)

Rp 1フロセミド錠40 mg 1回1錠(1日1錠)
デノパミン錠5 mg 1回1錠(1日1錠)
 1日1回 朝食後
Rp 2ニフェジピンCR錠10 mg1回1錠(1日1錠)
ボノプラザンフマル酸塩錠10 mg1回1錠(1日1錠)
酸化マグネシウム錠330 mg1回1錠(1日1錠)
 1日1回 夕食後
Rp 3酢酸亜鉛水和物錠50 mg1回1錠(1日2錠)
ルビプロストンカプセル24 μg1回1カプセル(1日2カプセル)
アセトアミノフェン錠200 mg1回2錠(1日4錠)
ミロガバリンベシル酸塩錠2.5 mg1回1錠(1日2錠)
 1日2回 朝夕食後
Rp 4ゾルピデム酒石酸塩錠5 mg1回1錠(1日1錠)
 1日1回 寝る前
Rp 5経腸栄養剤(375 kcal /250 mL)1回1缶(1日1缶)
 1日1回 医師の指示どおり

入院時検査値)
 AST 19 U/L、ALT 18 U/L 、ChE 100 U/L、ALB 3.1 g/dL、Hb 9.2 g/dL
 Na 138 mEq/L、K 3.5 mEq/L

薬剤師が解決したプロブレム

#1 ポリファーマシーの疑い
#2 銅欠乏の疑い

持参薬やお薬手帳を確認し、入院時での患者面談において、この1ヶ月ほど食欲不振もあって食事摂取量が低下していたこと、食欲はなく食事がとれない中でも、処方薬は医師の指示どおりに飲まなくてはいけないと考えて全て服薬されていたことがわかりました。

入院時の処方薬は11剤と多剤併用で、添付文書に食欲不振を示す薬剤があること、また、入院時の初回面談にて酢酸亜鉛水和物は2年前から服用されていることがわかりました。全身倦怠感・食欲不振や前回入院時に貧血のため輸血を行っていることから、点滴にて対症療法を行っていくとともに、薬剤が影響しないかを確認することしました。

多剤併用への対処法としては、薬剤との関係が疑わしい症状や所見があった場合には、処方の中止、減量、又は変更を検討することが推奨されています。添付文書の副作用確認や『高齢者の安全な薬物療法ガイドライン2015』などを確認し、薬剤が要因となっていないか入院時から確認していくことが必要です。

今回は、入院時の面談後、多剤併用や薬物関連問題、食欲不振の要因について医師と協議し、必要最低限の薬剤から開始していくこととなりました。

また、酢酸亜鉛水和物は十二指腸及び空腸で吸収され、この吸収過程で銅と拮抗することが知られています。加えて、今回は特に食欲不振から食事量が低下したために、銅の摂取量が低下していたことも考えられます。

この銅欠乏では、貧血や汎血球減少が起こる可能性があり、酢酸亜鉛水和物による銅欠乏が患者の倦怠感や貧血の1つの要因となっていることを疑い、血清銅の検査と低値であれば酢酸亜鉛水和物の中止を提案しました。

銅の検査値)
 血清銅 13 μg/dL (基準値:男性70~140 μg/dL)

退院時処方:入院から2週間後) ※青字は薬剤師の処方提案による変更箇所

Rp 1フロセミド錠40 mg 1回1錠(1日1錠)
デノパミン錠5 mg 1回1錠(1日1錠)
ボノプラザンフマル酸塩錠10mg1回1錠(1日1錠)
 1日1回 朝食後
Rp 2ラクツロース経口ゼリー分包12g1回1包(1日2包)
 1日2回 朝夕食後
Rp 3レンボレキサント錠5 mg1回1錠(1日1錠)
 1日1回 寝る前
Rp 4経腸栄養剤(300 kcal/250 mL)1回1缶(1日1缶)
 1日1回 医師の指示どおり

※入院時処方からの変更内容

  • ・ニフェジピンCR錠10 mgは血圧安定していたため中止
  • ・ボノプラザンフマル酸塩錠10 mgは夕食後→朝食後に変更
  • ・酸化マグネシウム錠330 mg、ルビプロストンカプセル24 μgは中止し、経過観察・排便状況を確認した後、ラクツロース経口ゼリー分包12 gに変更
  • ・酢酸亜鉛水和物錠50 mgは中止
  • ・アセトアミノフェン錠200 mg、ミロガバリンベシル酸塩錠2.5 mgは痛みの訴えなく中止
  • ・ゾルピデム酒石酸塩錠5 mgは、レンボレキサント錠5 mgに変更
  • ・経腸栄養剤(375 kcal/250 mL)から入院中は栄養補助食品に変更して銅補充→退院時は経腸栄養剤(300 kcal/250 mL)に変更
  • ・一包化対応、服薬簡素化が行えるように一部用法を変更

今回の薬歴

#1 ポリファーマシーの疑い

  • S 食欲はなく、水分や栄養剤だけでした。薬は飲まないといけないと思って全部飲んでいました。
  • O ポリファーマシーによる食欲不振の疑い、薬物関連問題・薬物有害事象の疑い。
  • A 薬物有害事象の可能性を考慮し、必要最低限の薬から開始を検討か。
  • P 医師に減薬提案、了承されたため、患者に説明。減薬後の体調変動をモニタリング。
(2日後)
  • O 薬剤は入院後からフロセミド、デノパミン、ボノプラザンフマル酸塩、レンボレキサントのみ、バイタル・食事摂取量・睡眠状況は良好、看護記録・経過記録より入院後は排便回数なし。
  • A 透析患者であるため、ラクツロース経口ゼリー分包12 gが有害事象リスク低いか。
  • P 主治医にラクツロース経口ゼリー分包12 gの処方提案、了承されたため、患者に説明。

#2 銅欠乏の疑い

  • S 以前、味がわからなくなって薬を飲み始めて、その後からずっと服用しています。
  • O 味覚異常にて酢酸亜鉛水和物錠の開始、過去受診歴から少なくとも2年間は継続投与。
  • A 酢酸亜鉛水和物錠の長期投与や食欲不振による食事摂取量の低下が重なり、銅欠乏の可能性を精査・医師に検査提案が必要か。銅欠乏が倦怠感や貧血の1つの要因となっていないか検討。
  • P 主治医に亜鉛、銅の検査追加提案。酢酸亜鉛の中止提案。
(3日後)
  • O 血清鉄、フェリチン、血清亜鉛は正常値、血清銅は13 μg/dLと低値。
  • A 経腸栄養剤(300 kcal/250 mL)では銅0.48 mg/缶で摂取可能、栄養士より栄養補助食品(125 mL/本)では銅0.7 mg/本が摂取できると提案あり。
  • P 入院中は栄養補助食品を提案、退院後は経腸栄養剤(300 kcal/250 mL)を提案。

●入院から2週間経過し、食事は10割摂取できるなど経過良好になったが、リハビリや療養目的に転院となった。当院での処方経過について、お薬手帳や薬剤管理サマリーを介して転院先に情報提供した。

実務実習生の疑問に答える

Q1 薬物関連問題とは何ですか?

薬物関連問題とは、ポリファーマシー(Q2参照)、薬物有害事象、代謝機能の低下に伴う過量投与、複数の医療機関への受診、過少処方(治療のために必要な薬剤が処方されていない)、薬物相互作用、服薬過誤、服薬アドヒアランスの低下等、薬剤投与に伴うさまざまな問題のことです。

今回の症例は、味覚異常に伴って処方された酢酸亜鉛の漫然投与(必要な検査が行われていなかった可能性)により、銅欠乏に至った症例です。通常は微量元素である銅は通常の食事からも摂取が可能でしたが、食欲不振によって食事量が低下していたためにさらに銅欠乏が悪化した可能性も考えられます。安易に持参薬の継続投与を提案するのではなく、患者の生活状況や食事状況の確認、薬物関連問題がないかを確認した上で持参薬の服薬計画を医師に提案する必要があります。

Q2 ポリファーマシーとは何ですか?

ポリファーマシーとは、単に服用する薬剤数が多いことではなく、それに関連して薬物関連問題のリスク増加、服薬過誤、服薬アドヒアランス低下、さらに過少処方(本来は治療のために必要な薬剤が処方されない)といった問題につながる状態のことです。すなわち、ポリファーマシーは薬剤のあらゆる不適切な問題をさし、多剤併用の中でも害が利益を上回った状態です。

ポリファーマシーに関しては、平成28年度の診療報酬改定において、多種類の服薬を行っている患者の処方薬剤を総合的に調整し、薬剤数が減少した際の評価として「薬剤総合評価調整加算」(入院)、「薬剤総合評価調整管理料」及び「連携管理加算」(外来)が新設されました。

その後、令和6年度の診療報酬改定において多職種連携によるポリファーマシー対策をさらに推進するために算定要件が見直されました。令和6年度の変更の要点では、多職種カンファレンスを一律に行うのではなく、各医療機関の実情に合わせた業務手順書を作成し、日常的な情報共有を活用して薬物療法の適正化を目指すことを求めています。

武藤 浩司(むとう こうじ)
新潟市民病院(新潟県新潟市中央区)・薬剤部。676床の三次救急医療や高度急性期を担う病院であり、救命救急・循環器病・脳卒中センター、総合周産期母子医療センター、救急ステーション、ドクターカー稼働、地域がん診療連携拠点病院、がんゲノム医療連携病院、地域医療支援病院等の機能を有する。病院機能に応じた薬剤業務を展開していけるよう新人薬剤師教育や専門・認定薬剤師の教育に努めている。
薬剤部紹介はこちら
https://www.hosp.niigata.niigata.jp/department/drug/
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