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薬物治療の個別最適化

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薬物治療の個別最適化

[外来患者]乳がん患者のレジメン選択支援を行い、治療が決定、身体的苦痛を解消した症例-獨協医科大学埼玉医療センター

薬物治療の個別最適化

本シリーズでは、薬物治療の個別最適化を行った事例を紹介していきます。

[外来患者]乳がん患者のレジメン選択支援を行い、治療が決定、身体的苦痛を解消した症例-獨協医科大学埼玉医療センター

今回の症例

化学療法(EC療法:エピルビシン塩酸塩+シクロホスファミド水和物)中の50歳代・女性の乳がん患者さんに、医師から続けて行う補助療法の2つのレジメン(治療内容)が提示されました。

医師より提示されたレジメン)

その1
 パクリタキセル 80 mg/m2 点滴静注 1, 8, 15日目点滴 28日毎 4コース
その2
 ドセタキセル水和物 75 mg/m2 点滴静注 1日目点滴 21日毎 4コース

しかし、患者さん自身の判断だけでレジメンを決定することができず、医師より依頼を受け、薬剤師が患者さんと話し合いのもと、レジメン選択(インフォームドチョイス)を支援することになりました。

補助療法のパクリタキセル毎週投与(レジメンその1)とドセタキセル水和物3週毎投与(レジメンその2)の治療効果は、ECOG1199試験1)より同等であることがわかっており、どちらの治療を選択しても患者さんが受ける恩恵は変わりありません。よって、各レジメンの治療スケジュールと有害事象の比較(ECOG1199試験の結果を参照)、治療による弊害点を抽出し、患者さんに合うレジメンを検討しました。

薬剤師が解決したプロブレム

# 化学療法施行による身体的苦痛を解消するレジメン選択

患者さんは、前治療の化学療法(EC療法)において、倦怠感、悪心、食欲不振、脱毛がありました。患者さんは、タキサン系薬剤の治療による脱毛が避けられないことに理解があり、食欲低下の要因だった倦怠感や悪心がなく、化学療法による身体的苦痛がなく過ごせる治療を検討することとしました。

まず、悪心に関しては、制吐薬適正使用ガイドライン第3版2)より、パクリタキセルとドセタキセル水和物は共に軽度催吐性リスクに分類されています。パクリタキセルとドセタキセル水和物のどちらを選択しても悪心が出現する可能性は低いです。

次に、倦怠感に関しては、パクリタキセルの方が発現割合が低く、身体的苦痛を解消できる可能性があります。

その他の身体的有害事象に関しては、パクリタキセルは末梢神経障害、ドセタキセル水和物は筋肉痛・関節痛の発現割合が高いことがわかっています。日常生活で家事を行うことに支障をきたしてしまう可能性がありますが、末梢神経障害は累積投与量により発現するため、1コース目より発現しにくいという特徴があります。

治療スケジュール面に関しては、パクリタキセル治療は点滴回数が多く、頻回に通院しなければならないという欠点があります。

以上のことを説明したところ、早期に有害事象が出現しにくい点と近隣に住んでおり頻回通院は可能であることから、パクリタキセルでの治療を希望されました。その後、患者さんより医師へパクリタキセルで治療をする決断をしたことを伝え、治療が開始されました。

治療開始後、末梢神経障害、倦怠感、悪心の発現はなく、通常どおりの食事ができており、体重が減少することなく、スケジュールどおりに治療を完遂することができました。

今回の薬歴

# 化学療法施行による身体的苦痛を解消するレジメン選択

  • S 前回の化学療法(EC療法)で、倦怠感、悪心、食欲不振、脱毛があった。自宅が近いため頻回通院は問題ない。
  • O 前治療の有害事象の発現:倦怠感(気力低下)、悪心(経口摂取量の減少を伴う)、食欲不振(前治療終了時、体重2 kg減少)、脱毛(他人にも容易にわかる)
    アルコール過敏症なし
    家事全般:本人
    病院の近くに住まいあり
  • A 治療効果はパクリタキセル毎週投与とドセタキセル水和物3週毎投与で同等。患者に下記を情報提供し、レジメン選択を支援
    ・催吐性リスク:パクリタキセル、ドセタキセル水和物→共に軽度
    ・通院・点滴回数:パクリタキセル(12回)>ドセタキセル水和物(4回)
    ・ドセタキセル水和物に多い有害事象:倦怠感、筋肉痛、関節痛
    ・パクリタキセルに多い有害事象:末梢神経障害
  • S パクリタキセルでの治療を希望
  • P パクリタキセル治療開始後、倦怠感、悪心、食欲不振、末梢神経障害の発現状況、体重の増減確認

実務実習生の疑問に答える

Q1 インフォームドチョイスとは何ですか?

十分な説明を受けた上で患者さんが自らの意思で治療方法を選び決定することです。予後に大差がなく治療方針が複数ある場合、患者さんが、医療従事者から説明を受けたり、情報収集を行ったりして治療方法を選択しますが、患者さん自身で情報収集するには限界があります。薬剤師が支援することで、薬に関する正確な情報を提供でき、より患者さんの希望に沿った治療の選択につながるとともに、医師の負担軽減にもなります。

  • ●参考
  • 1) Sparano JA,et al:Weekly paclitaxel in the adjuvant treatment of breast cancer.N Engl J Med,358(16):1663-1671,2008.
  • 2) 制吐薬適正使用ガイドライン 2023年10月改訂 第3版(日本癌治療学会編),金原出版,東京,2023.
  • 箱崎 美伽(はこざき みか)
    獨協医科大学埼玉医療センター(埼玉県越谷市)・薬剤部。外来がん治療専門薬剤師。
    病床数928床、通院治療センター52床が稼働しており(2024年4月現在)、がん診療連携拠点病院、日本臨床腫瘍薬学会がん診療病院連携研修受け入れ施設となっている。薬剤部では、医療機関連携として退院サマリーの作成を積極的に行い、保険薬局連携としてさまざまな疾患をテーマに薬薬連携会を月1回開催している。
    薬剤部紹介はこちら
    https://www.dokkyomed.ac.jp/hosp-s/department/consultation_organization/47
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