薬物治療の個別最適化
HOME > 薬物治療の個別最適化
薬物治療の個別最適化
[在宅患者]高齢者の降圧薬併用による生命予後低下と副作用発現の可能性から減薬を提案した症例
本シリーズでは、薬物治療の個別最適化を行った事例を紹介していきます。
[在宅患者]高齢者の降圧薬併用による生命予後低下と副作用発現の可能性から減薬を提案した症例
今回の症例
85歳・女性、高血圧症の患者さん。身長152 cm、体重38 kg、BMI 16.4。1年前に家の中で転倒して右大腿骨転子部骨折、リハビリ施設のある病院に入院、要介護4となり、先月から自宅に戻ることなく直接、特別養護老人ホームに入居しています。日常生活では自力での立ち上がりや、着替えなどの身の回りのことにも介護が必要になり、体重は半年で2 kg減少しました。また、この1~2ヶ月、めまいがすることが増えて不安を感じていました。
処 方)
Rp 1 | アムロジピンベシル酸塩錠5 mg | 1回1錠(1日1錠) |
---|---|---|
テルミサルタン錠40 mg | 1回1錠(1日1錠) | |
1日1回 朝食後 30日分 | ||
Rp 2 | ベタヒスチンメシル酸塩錠6 mg | 1回1錠(1日3錠) |
1日3回 朝昼夕食後 10日分 (めまいがある時) |
検査値)血清K 4.7 mEq/L、Scr 0.6 mg/dL、eGFR 70.0 mL/min/1.73 m2
※臨床検査値は処方箋に記載あり
現病歴)高血圧症、めまい
薬剤師が解決したプロブレム
# 降圧薬併用による生命予後低下と副作用発現の可能性
お薬手帳を確認すると、Rp 1が3年前から継続投与されており、Rp 2は2ヶ月前から処方されています。血圧手帳によると、最近1ヶ月の血圧は収縮期血圧が110~120 mmHg、拡張期血圧は80~90 mmHgとなっています。
介護施設入居者を対象とした海外の研究において降圧薬を2剤以上服用し、かつ収縮期血圧130 mmHg未満の場合、1剤のみ処方されている患者さんと比較して、2年生存率が10%程度低下することが報告されています1)。また、めまいの出現が血圧低下によるという可能性も考えられました。
このため、薬剤師は医師に対して、この文献の要点をまとめた資料とともに、降圧薬を1種類に減薬する処方提案を行いました。これを受けて、テルミサルタン錠40 mg の投与が中止され、降圧薬はアムロジピンベシル酸塩錠5 mgの単剤となりました。
変更後処方)
Rp 1 | アムロジピンベシル酸塩錠5 mg | 1回1錠(1日1錠) |
---|---|---|
1日1回 朝食後 30日分 | ||
Rp 2 | ベタヒスチンメシル酸塩錠6 mg | 1回1錠(1日3錠) |
1日3回 朝昼夕食後 10日分 (めまいがある時) |
その後、収縮期血圧が130~140 mmHg、拡張期血圧は85~95 mmHgと安定し、めまいの頻度も少なくなりました。
今回の薬歴
# 降圧薬併用による生命予後低下と副作用発現の可能性
- S 筋力が衰えて、この1~2ヶ月くらいめまいが起きることがあり、不安
- O 介護施設入居高齢者、血圧110~120 mmHg、降圧薬2剤処方
- A 生命予後低下の可能性、血圧低下によるめまいの可能性
- P 医師に根拠となる資料を添えた上で、減薬提案を行う
実務実習生の疑問に答える
Q1 介護老人福祉施設(特別養護老人ホーム)に入居できる条件は?
介護老人福祉施設(特別養護老人ホーム、特養)は介護保険施設の1つで、入所条件は、原則として要介護3以上(現実的には要介護4以上)の年齢65歳以上あるいは特定疾病のある年齢40~64歳の方です。ただし、要介護1又は2でも居宅において日常生活を営むことが困難なやむを得ない場合の特例入所も認められています。
Q2 引用した論文の出典は?
出典は、JAMA Intern Med,175(6):989-995,2015。フランスとイタリアの80歳以上の介護施設入居者を対象とした2年間の観察研究です。これらの結果から、介護施設入居者や超高齢者、フレイルの患者さんへの降圧療法には留意する必要があるといわれており、薬剤師国家試験でも109回問326や104回問341で引用されています。
Q3 テルミサルタンが削除された理由は?
本例では、血清カリウム値が基準値内ではあるものの高めであること、心不全やCKDの合併がなかったことによりARBのテルミサルタンが削除されました。なお、腎機能については、筋肉量の減少によるクレアチニン値低下の可能性も考慮しました。
●執筆協力
泉ライフ薬局、練馬区薬剤師会・副会長 會田一惠
富士見台調剤薬局・専務取締役、帝京大学薬学部薬学教育推進センター・教授、薬剤師・薬学博士(薬理学)・臨床検査技師・医薬品情報専門薬剤師。
「薬物治療の個別最適化」の学修に役立つ新たなコンテンツを検討しています。
本記事への感想など、ぜひご意見をお聞かせください。
薬物治療の個別最適化
-
[外来患者]乳がん患者のレジメン選択支援を行い、治療が決定、身体的苦痛を解消した症例-獨協医科大学埼玉医療センター
薬物治療の個別最適化を掲載しました。
- 学ぶ
-
[在宅患者]高齢者の降圧薬併用による生命予後低下と副作用発現の可能性から減薬を提案した症例
薬物治療の個別最適化を掲載しました。
- 学ぶ
-
[在宅患者]認知症患者の周辺症状の増強から副作用を疑った症例
薬物治療の個別最適化を掲載しました。
- 学ぶ
-
[入院患者]人生の最終段階にあるがん患者への疼痛コントロールでACPを実践した症例-西岡病院
薬物治療の個別最適化を掲載しました。
- 学ぶ
-
[入院患者]薬剤師間連携により、潜在性甲状腺機能低下症の疑いや口腔内副作用を解決した症例-長崎病院
薬物治療の個別最適化を掲載しました。
- 学ぶ
-
[外来患者]糖尿病患者の体調の変化から、服薬調整を指導した症例
薬物治療の個別最適化を掲載しました。
- 学ぶ
-
[入院患者]画像で心肥大等を確認し、利尿剤投与に伴う低カリウム血症を解決した症例-川口工業総合病院
薬物治療の個別最適化を掲載しました。
- 学ぶ
-
[入院患者]外科的治療と歩行訓練や臥床時の圧迫やずれにより難治化した踵部褥瘡を改善した症例-小林記念病院
薬物治療の個別最適化を掲載しました。
- 学ぶ
-
[外来患者]目の縁のただれから、化学療法の副作用を発見した症例
薬物治療の個別最適化を掲載しました。
- 学ぶ
-
[入院患者]薬物相互作用のチェックにより、薬剤性肝機能障害を解決した症例-近森リハビリテーション病院
薬物治療の個別最適化を掲載しました。
- 学ぶ
-
[外来患者]PT-INRの変化からDo処方の増量を提案した症例
薬物治療の個別最適化を掲載しました。
- 学ぶ