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薬物治療の個別最適化

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薬物治療の個別最適化

[外来患者]糖尿病患者の体調の変化から、服薬調整を指導した症例

薬物治療の個別最適化

本シリーズでは、薬物治療の個別最適化を行った事例を紹介していきます。

[外来患者]糖尿病患者の体調の変化から、服薬調整を指導した症例

今回の症例

いつも当薬局で処方箋を応需している58歳・男性、2型糖尿病の患者さんから土曜日の深夜2時(日曜日の午前2時)に電話がありました。「土曜日の昼過ぎから発熱して夕ご飯は半分しか食べられなかった。熱は少し引いたが下痢気味だ。」

処 方)

Rp 1メトホルミン塩酸塩500 mg MT錠 1回1錠(1日2錠)
 1日2回 朝夕食後 30日分
Rp 2ダパグリフロジンプロピレングリコール水和物錠10 mg*11回1錠(1日1錠)
シタグリプチンリン酸塩水和物錠50 mg*21回1錠(1日1錠)
 1日1回 朝食後 30日分
Rp 3インスリングラルギン(遺伝子組換え)450単位/1.5 mL*31キット
 1回10単位 皮下注 朝食前

(*1:商品名フォシーガ。*2:商品名ジャヌビア、グラクティブ。*3:商品名ランタスXR注ソロスター)

過去の薬歴を確認すると、数年間内服薬で薬物治療されていましたが、1年前にHbA1cが8.4%と上昇したタイミングで、インスリングラルギンが導入されていました。この半年で体重の変化はなく、HbA1cは7.0%前後で推移しています。

そこで患者さんに次のように説明しました。「血糖コントロールをしっかり続けていても、かぜをひいたり、おなかをこわしたりといった糖尿病以外の病気にかかる場合は『シックデイ』といわれています。このようなとき血糖値は高くなりやすく、一方で服用している薬による低血糖も起こしやすいので、危険な状態にならないために注意点があります。」

薬剤師が解決したプロブレム

# シックデイと判断して対応を指導

発熱、下痢、食欲不振等から「シックデイ」であると推測しました。主治医に連絡をとれるのは月曜日の朝なので、シックデイの当面の対応について食事摂取に応じた糖尿病治療薬の減量調節について患者に指導しました。

  1. ①食事がとれなくても自己判断でインスリン注射は中断しないこと
  2. ②メトホルミンとダパグリフロジンは中止すること
  3. ③十分な水分補給をして、スープやお粥などをとって絶食を避けること
  4. ④3~4時間ごとに血糖を自己測定し、血糖が200 mg/dLを超えたら医師か薬剤師に連絡すること

幸い、血糖は最高150 mg/dLで、日曜日の午後には平熱に戻り、下痢もおさまったとのことでした。

今回の薬歴

# シックデイと判断して対応を指導

  • S 「発熱と下痢。夕ご飯は半分しか食べられなかった。」
  • O Do処方
  • A シックデイと判断
  • P シックデイルールに従って、飲食と投薬について指導。インスリン注射は継続、メトホルミン、ダパグリフロジンは一時中断
    緊急性に応じて月曜日早朝に主治医に連絡、あるいはトレーシングレポートを提出する

実務実習生の疑問に答える

Q1 患者さんが深夜に薬剤師に相談できたのはなぜ?

2015年10月に公表された「患者のための薬局ビジョン」には、「かかりつけ薬剤師・薬局が持つべき機能」の1つとして「24時間対応」が示されています。

この薬局では薬袋に夜間の連絡先として携帯電話番号が記載されていました。

Q2 シックデイの薬の量の加減の目安は?

日本くすりと糖尿病学会の「糖尿病薬適正使用のためのシックデイルール指導のてびき」1)には食事量ごとに薬剤調整の目安が記載されています。

基礎分泌に相当する中間型やこの患者さんに処方されたランタスXR注ソロスターのような持効型インスリン製剤は注射の継続が基本となります。

ビグアナイド薬であるメトホルミンは脱水により乳酸アシドーシスを起こす危険性があり、またSGLT2阻害薬であるダパグリフロジンは脱水やケトアシドーシスを起こす危険性があるので中止します。DPP-4阻害薬であるシタグリプチンは吐き気・嘔吐がある場合には中止も可能とされています。

今回は深夜・休日の対応で、薬剤師が指導した後に、医師にトレーシングレポートにて報告となりましたが、シックデイルールの食事摂取に応じた糖尿病治療薬の減量調節については、医師の指示を仰ぐことが基本となります。

  • ●参考
  • 1) 糖尿病薬適正使用のためのシックデイルール指導のてびき.くすりと糖尿病,10(Suppl):137-138,2021.
  • ●執筆協力
    つなぐ薬局、帝京大学薬学部薬学教育推進センター・助教 阿部真也

    下平 秀夫 (しもだいらひでお)
    富士見台調剤薬局・専務取締役、帝京大学薬学部薬学教育推進センター・教授、薬剤師・薬学博士(薬理学)・臨床検査技師・医薬品情報専門薬剤師。

    当記事は薬ゼミの薬学生向けフリーマガジン「YAKUZEMI PLUS」No.63(2024 WINTER)P.27へ掲載したものです。
    「YAKUZEMI PLUS」は、どなたでもご覧いただける「デジタルブック」を無料公開中です。

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