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薬物治療の個別最適化

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薬物治療の個別最適化

[入院患者]画像で心肥大等を確認し、利尿剤投与に伴う低カリウム血症を解決した症例-川口工業総合病院

薬物治療の個別最適化

本シリーズでは、薬物治療の個別最適化を行った事例を紹介していきます。

[入院患者]画像で心肥大等を確認し、利尿剤投与に伴う低カリウム血症を解決した症例-川口工業総合病院

今回の症例

心筋梗塞の既往があり、心不全の治療で他院に通院中の60代・男性の患者さんが、心不全の急性増悪で当院に入院しました。

入院時処方)

 タケルダ配合錠1回1錠(1日1錠)
 ビソプロロールフマル酸塩錠2.5 mg1回1錠(1日1錠)
 エナラプリルマレイン酸塩錠2.5 mg1回1錠(1日1錠)
 アムロジピンベシル酸塩OD錠5 mg1回1錠(1日1錠)
 ダパグリフロジンプロピレングリコール錠10 mg1回1錠(1日1錠)
 フロセミド錠20 mg 1回1錠(1日1錠)
 ピタバスタチンカルシウムOD錠2 mg1回1錠(1日1錠)
  1日1回 朝食後

入院時検査値)
Na 139 mEq/L、K 3.8 mEq/L、eGFR 28.9 mL/分/1.73m2、Scr 1.93 mg/dL

入院時心エコー検査)
左室駆出率LVEF 28%、下大静脈径IVC 24 mm、左室拡張末期径LVDd 60 mm、左室収縮末期径LVDs 56 mm

フロセミドを内服から静注に変更し、かつトルバプタンOD錠7.5 mgが追加となった結果、利尿が促され順調に経過したため、心臓リハビリテーションを開始することになりました。その後、フロセミドは内服に切り替え、トルバプタンOD錠は中止となった時点で、低カリウム血症を認めました。

フロセミドを静注から内服に切り替えた時の検査値)
 K 3.3 mEq/L、eGFR 44.2 mL/分/1.73 m2、Scr 1.11 mg/dL

薬剤師が解決したプロブレム

# 利尿剤投与に伴う低カリウム血症

低カリウム血症はフロセミドの静注により起こったと考えました。患者さんは心筋梗塞の既往と心不全の発症により心不全ステージCに該当します。ガイドライン1)では、「ステージCにおける慢性期治療はLVEFに応じて選択する」、「LVEF 40%未満(HFrEF)の基本薬はACE阻害薬/ARB+β遮断薬+MRA」とされていますが、MRA(ミネラルコルチコイド受容体遮断薬)は重度の腎機能不全では投与を避けます。検査所見を確認するとeGFR 30 mL/分/1.73 m2以上、Scr 1.2 mg/dL未満であり、MRAの有用性は期待できる症例でした。

また、胸部X線(図1)、心エコー(図2)で、心肥大、HFrEF(LVEFが40%未満に低下した心不全)であることを確認し、カリウム製剤を追加するのではなく MRAの追加を医師に提案し採択されました。

図1 胸部X線画像
図1 胸部X線画像

図2 心エコー(長軸断面像)
図2 心エコー(長軸断面像)

その後の採血で、血清K値が基準値範囲内(3.6~5.0 mEq/L)にあることを確認しました。

今回の薬歴

# 利尿剤投与に伴う低カリウム血症

  • S 「特に手のしびれとか倦怠感などはありませんね。いつもと変わりないです。入院前も薬の飲み忘れは特にありませんでした。」
  • O K 3.3 mEq/L
  • A 低カリウム血症。胸部X線、心エコーでは心肥大、心機能低下の所見あり。カリウム製剤よりHFrEFの基本薬MRAが有用
  • P 「HFrEF、心肥大のある症例であり、カリウム製剤ではなくスピロノラクトンの内服追加をご検討ください。」と医師に提案
    追加された場合は、次回の採血でK値の変化を確認する

  • ●参考
  • 1) 日本循環器学会・日本心不全学会:急性・慢性心不全診療ガイドライン2017年改訂版・2021年フォーカスアップデート版.
  • 塗木 勇介 (ぬるきゆうすけ)
    川口工業総合病院(埼玉県川口市)・薬剤部。当院は199床の中小病院で、スタッフ間の距離も近く、比較的臨床介入しやすいのが特徴。医薬品だけでなく、CT・MRI・X線・心エコー・心電図等の画像検査も含め幅広い知識の習得に努めている。
    薬剤部紹介はこちら
    https://www.kogyohsp.gr.jp/division/pharmacy

    当記事は薬ゼミの薬学生向けフリーマガジン「YAKUZEMI PLUS」No.63(2024WINTER)P.31へ掲載したものです。
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