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薬物治療の個別最適化

[入院患者]外科的治療と歩行訓練や臥床時の圧迫やずれにより難治化した踵部褥瘡を改善した症例-小林記念病院

薬物治療の個別最適化

本シリーズでは、薬物治療の個別最適化を行った事例を紹介していきます。

[入院患者]外科的治療と歩行訓練や臥床時の圧迫やずれにより難治化した踵部褥瘡を改善した症例-小林記念病院

今回の症例

自宅で自立歩行していましたが、転倒して右大腿骨転子部を骨折し、入院治療となった92歳・女性の患者さん。左踵部に4.0 cm大のⅢ度褥瘡が発症し、皮膚移植したものの、臥床や歩行訓練により生着しませんでした。入院後4ヶ月経過しましたが、難治化し、外用薬治療に変更となっていました(図1)。

処 方)
 スルファジアジン銀クリーム 50 g
  1日1回 塗布

図1 介入時の左踵部の創の状態図1 介入時の左踵部の創の状態

薬剤師が解決したプロブレム

# スルファジアジン銀のみでは効果不十分

褥瘡は筋層にまで到達し、滲出液が少量あり、壊死組織が残存していました。壊死の清浄化のためスルファジアジン銀クリームが外用されていましたが、歩行訓練による圧迫やずれが加わり、壊死が清浄化しない状態でした。

踵部褥瘡は皮膚組織の構造が他の部位とは異なり、角層が厚く、水分を与える必要があります。しかし、この場合は歩行訓練による圧迫やずれによって創が押され、創が乾燥傾向になり、壊死の形成がより進んだと考えられました。

壊死組織は一部線維化していたため、創に水分を与える補水性基剤のスルファジアジン銀クリームに加え、吸水性基剤の蛋白分解酵素ブロメラインと線維性壊死組織を細断するヨードホルムガーゼを併用して、湿潤状態を適正に保持するよう処方変更を提案しました。
また、薬剤滞留を維持するためにレストンスポンジによる創外固定を実施し、外用薬の効果が十分に発揮できるように創の治癒環境を確保することで、難治化した褥瘡を完治させることができました(図2)。

図2 退院時(介入後49日目)の左踵部の状態図2 退院時(介入後49日目)の左踵部の状態

今回の薬歴

# スルファジアジン銀のみでは効果不十分

  • S 足が痛いが、なかなかよくならない。早く治したい。
  • O 色調不良、壊死残存、創が押されている。
  • A 踵部は仰向けに寝ることや歩くことで必ず創に体重がかかり、創が変形して薬が創からはみ出してしまう。また、圧迫やずれにより創の表面に壊死した組織が付着して創が治りにくい状態になっている。
  • P 創面に残存する壊死組織を清浄化するために、基剤ファーストに基づき補水性基剤のスルファジアジン銀クリーム、吸水性基剤のブロメライン軟膏をブレンドして湿潤調節するとともに、線維性壊死を細断して清浄化を促すヨードホルムガーゼを併用して創の清浄化を図る。また、歩行や臥床時の創への圧迫やずれによる創の変形から創を保護しながら固定するためにレストンスポンジを使用する。

実務実習生の疑問に答える

Q1 基剤は添加物のため、薬効に影響しないはずでは? 基剤ファーストとは?

基剤は外用薬を構成する大きな要素で、主薬に比べ圧倒的に多量です。主薬は微量で薬効を示しますが、褥瘡のような創傷では適正な湿潤状態が治癒環境を形成するため、基剤の特性を利用した外用薬治療が重要になります。

主薬が効果を発揮するためには基剤による適正な湿潤調節が基盤になります。この点が皮膚における基剤の使い方とは一線を画すものです。そのため、単剤による湿潤調節が難しい場合があり、基剤をブレンドする必然性があるのです。

基剤は湿潤調節に影響するだけでなく、肉芽形成や上皮化に関係する細胞外マトリックス複合体の生成にも影響します。基剤の種類により生成する複合体の形態が異なり、塊状や層状の形態によって肉芽増生や上皮化が促されます。

Q2 壊死組織除去に用いる外用薬とは?

スルファジアジン銀クリームは水分量が約60%の水中油型乳剤性基剤を用い、抗菌作用を有するスルファジアジン銀を主薬としています。ブロメライン軟膏は吸水性基剤マクロゴールを用い、パイナップルから精製した蛋白分解酵素ブロメラインが主薬です。ヨードホルムガーゼは殺菌消毒作用を有するヨードホルムを綿ガーゼに含浸させた製剤です。

スルファジアジン銀クリームは水分によって壊死組織を軟化させ、抗菌性により壊死による感染を制御します。ブロメライン軟膏は蛋白分解酵素により筋・脂肪組織を分解し、マクロゴールは弱い抗菌作用を有して、壊死の感染を抑制します。ヨードホルムガーゼは真皮や腱・靭帯などコラーゲンⅠ型を多く含む線維性の強い壊死組織の線維を細断して清浄化を促し、殺菌消毒作用を示します。

これらの相乗効果により皮膚表層から深部組織に存在する壊死組織の清浄化に寄与し、円滑な清浄化が期待できるのです。

Q3 薬剤滞留の阻害を防ぐには?

高齢者の皮膚は加齢変化により、タルミができ、シワが生まれます。これにより創が移動したり、変形したりします。外用薬は創内に保持されてはじめて効果を発揮するものですので、創の移動や変形により創内に滞留できなくなると、薬剤の効果は減弱します。

ですから、薬剤滞留を阻害する問題をなくすことが必要です。この場合、皮膚移植の生着が完了しないまま訓練を行ったことが課題です。そのためには、創外の固定や創内の固定をする方法を用い、外用薬治療が円滑に進むように創環境を整えることが大切になります。

古田 勝経(ふるたかつのり)
医療法人愛生館 小林記念病院(愛知県碧南市新川町)・褥瘡ケアセンター。褥瘡・難治性創傷、皮膚潰瘍、足壊疽など、治りにくい創の外用薬治療を専門に診療している部門で、全国各地から治療を求めてこられる。フルタメソッドを実践し、チーム医療を実践している病院で、在宅や介護福祉施設などにも訪問している。
病院はこちら
http://www.aiseikan.or.jp

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