薬物治療の個別最適化
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[入院患者]薬物相互作用のチェックにより、薬剤性肝機能障害を解決した症例-近森リハビリテーション病院
本シリーズでは、薬物治療の個別最適化を行った事例を紹介していきます。
[入院患者]薬物相互作用のチェックにより、薬剤性肝機能障害を解決した症例-近森リハビリテーション病院
今回の症例
階段より転落し受傷、急性期病院で脊髄損傷の診断で手術を受けた82歳・男性の患者さんが、四肢麻痺の後遺症のリハビリ目的で当院へ転院しました。合併症として全身の筋緊張と両上肢のしびれがあり、薬物治療の調整中に、医師より血液検査で著明な肝機能障害と日中の強い眠気があると、薬剤の関与について薬剤師へ相談がありました。
処 方)
Rp 1 | プレガバリン錠75 mg | 1回1錠(1日2錠) |
---|---|---|
1日2回 朝夕食後 | ||
Rp 2 | チザニジン塩酸塩錠1 mg | 1回2錠(1日6錠) |
1日3回 毎食後 | ||
Rp 3 | スボレキサント錠15 mg | 1回1錠(1日1錠) |
ラメルテオン錠8 mg | 1回1錠(1日1錠) | |
1日1回 寝る前 | ||
Rp 4 | デュロキセチンカプセル20 mg | 1回1C(1日1C) |
1日1回 朝食後 |
※2日前よりデュロキセチン開始。
※その他は3ヶ月以上前より服用している。
検査値)AST 457 IU/L、ALT 689 IU/L (1ヶ月前は基準値内)
超音波検査)腹部エコーでは器質的異常なし
薬剤師が解決したプロブレム
# 薬剤性肝機能障害の被疑薬の特定
今回の症例は、腹部エコーで器質的異常がなく、次の①~③の薬剤性肝機能障害に対応する考え方、
- ①薬剤性肝機能障害は入院患者では比較的起こりやすい副作用で、機序にはアレルギー性と中毒性がある
- ②アレルギー性肝機能障害は通常、新規薬剤開始後1~6週間で起こる
- ③中毒性肝機能障害は過量服用や薬物相互作用により起こり得る。処方量の問題や過量服用歴がないのであれば、薬物相互作用を確認し被疑薬を特定する
をふまえると、デュロキセチン単剤やその他の服用薬によるアレルギー性肝機能障害の可能性は低く、薬物相互作用により薬物血中濃度が上昇し副作用が生じている可能性が疑われました。チザニジン塩酸塩、ラメルテオン、デュロキセチンの3剤はCYP1A2により代謝されるため、CYP1A2による代謝が競合阻害されて血中濃度が上昇していると考え、この3剤の減量・中止を提案しました。
減量・中止後は、日中傾眠と口渇症状、肝逸脱酵素上昇も改善し、中止に伴う悪影響もなく経過しました。
今回の薬歴
# 薬剤性肝機能障害の被疑薬の特定
- S 「夜は眠れましたが、昼間も眠たくて仕方がないです……。口がとても渇きます。」
- O 検査値)AST 457 IU/L、ALT 689 IU/L (1ヶ月前は基準値内)
超音波検査)腹部エコーでは器質的異常なし - A 薬物相互作用による薬剤性中毒性肝機能障害疑い
薬物相互作用確認→チザニジン塩酸塩、ラメルテオン、デュロキセチンの3剤がCYP1A2で代謝される薬剤。この3剤による競合阻害により血中濃度が上昇し副作用をきたした可能性が高い。上記3剤は過量投与により傾眠の報告あり。この3剤の薬剤の減量・中止が必要と考える。口渇症も血中濃度上昇に伴う副作用を疑う - P デュロキセチン、ラメルテオンの中止、チザニジン塩酸塩は1回1錠へ減量し経過問題なければ中止を医師へ提案
症状変化と次回血液検査の確認
近森リハビリテーション病院(高知県高知市)・薬剤部。リハ薬剤(薬剤による生活機能低下を考慮したリハビリ)を実践中の病院であり、薬剤部は“臨床に強い薬剤部”を目指し、薬剤師1人ひとりの臨床能力の底上げに力を入れている。
薬剤部紹介動画はこちら
https://www.chikamori.com/group/recruit/pharmacist/movie/
当記事は薬ゼミの薬学生向けフリーマガジン「YAKUZEMI PLUS」No.62(2023 SUMMER & AUTUMN)P.31へ掲載したものです。
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