薬剤師を取り巻く世界
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薬剤師を取り巻く世界
緊急特集「本当の勉強とは何か? 新型コロナウイルスを“生きた教材”に」
新型コロナウイルス感染症およびワクチンを巡る情報が錯綜しています。 医学博士 まず、ウイルスそのものについて復習します。 対して細菌は、生物の条件を満たしています。この細菌を攻撃する抗生物質を考えてみましょう。 しかしウイルスは細菌よりもはるかに小さく、暗号ですから、抗生物質の場合のような方法でやっつけることはできません。振り返ってみても、人類は細菌の場合と比べて、ウイルスに効く薬剤というものをほとんど作りだすことができませんでした。 さて今回の新型コロナのワクチンですが、もともと、長年にわたって抗がん剤を開発していたグループがあって、そこへ新型コロナの流行があり、「この抗がん剤開発のノウハウがこのウイルスへのワクチンにも使えるんじゃないの!?」とひらめいたというわけです。 天然痘ワクチンからはじまったワクチンですが、我々の身近なところでいえばインフルエンザワクチンでしょうね。日本で使われているものは不活化ワクチンですが、このワクチンが効く仕組みについて、インフルエンザを例にとってお話しします。 インフルエンザウイルスは人体にとっては異物ですから、これを分かりやすく「犯人」としましょう。ワクチンは、弱らせたり無害化した(「不活化」といいます)犯人なのです。注射器を経由して体内に送り込み、人体にもともと備わっている免疫機構に働きかけて、犯人像を教え込ませようとするものです。 これに対して、新型コロナのワクチンはもっとピンポイントなんです。
そこで今回は、元・厚生労働省健康局長の佐藤敏信先生にお話を伺いました。
元・厚生労働省健康局長
久留米大学特命教授(医療政策担当)
MIZUHO Group顧問
佐藤敏信先生
そもそも「新型コロナワクチン」とはどんなものですか?
光学顕微鏡でようやく確認できる赤血球よりも小さい細菌。ウイルスはそんな小さな細菌のさらに20分の1くらいという小ささです。ウイルスは、遺伝子配列そのもの。「暗号の塊」と言い換えてもいいかもしれません。
単独では増殖できず、厳密には生物とはいえないかもしれません。
細菌とその活動を工場に例えるなら、抗生物質はこの工場にあらゆる手を使って攻撃し、破壊しようというものです。ある物質は工場のベルトコンベアを壊す、ある物質は工場の壁を壊すといった具合です。
ただ、ワクチンは以前からありました。抗生物質の場合のような治療薬は難しいけれど、予防ならできるぞ、ということです。
免疫機構は、それでおおよその犯人の特徴を把握し、その対抗措置・攻撃能力を準備します。すると、本当の犯人が侵入してきた時に、これを正しく犯人と判断し、準備しておいた攻撃能力を発揮するというわけです。免疫機能が働いてやっつける。
先ほどの例でいうと、ウイルスという犯人の具体的な外観、たとえばサングラスをしている、目出し帽を被っているなどの情報を伝え、それを「記憶」させ、準備させます。ここでいうサングラスや目出し帽が、新型コロナの場合にはウイルス表面のスパイクたんぱくです。
というメカニズムです。
スパイクたんぱく(サングラス)自体は実は人体に直接的な影響は与えないけれど、犯人像を構成する要素なのでこれを記憶し準備してもらう。そうすると本当にウイルスが侵入して来ようという時に、そのスパイクたんぱくを感知してスムーズに攻撃・撃退することができるというわけです。
【免疫のできる仕組みはこういうこと】
2つの作用
液性免疫
抗体がウイルスを捕獲し、ウイルスの表面にあるスパイクタンパク質と結合することで、細胞内へのウイルスの侵入を阻止
細胞性免疫
T細胞(Tリンパ球)が、感染した細胞の表面にある、ウイルス由来のスパイクタンパク質の微小片を探し出し、細胞を破壊
(Fernando P, et al.Safety and Efficacy of the BNT162b2 mRNA Covid-19 Vaccine.N Engl J Med 2020; 383:2603-2615)
このワクチンはこれまで実用化されたことのなかった画期的なものなので、まだまだわからないことも多いです。現時点では、ワクチンは「有効・安全」とも「効果がない・危険」とも断言することはできません。
そんな中でマスコミやネット上の情報は、副反応、副作用について、過大に伝えてしまうこともあり、薬剤について知識のない、一般市民の皆さんが過剰に怖がってしまっているというのが現実です。
そもそも、ワクチンを含めて薬剤というものが、基本的には人体にとって「異物」であり、効果が100で、副作用が0という薬剤は存在しない、ということをきちんと理解してください。
その上で、ワクチンを打つことのメリットとデメリットを秤にかけ、冷静に判断することが重要です。
マスク
驚く方もいるかもしれませんが、ヨーロッパやアメリカでは最近までマスクの効果に対して懐疑的でした。「アジア人はすぐにマスクをするが、気休め程度の意味しかないだろう。」との見方でした。マスクの繊維の目に比べて、ウイルスが相当に小さいから通り抜けるだろうというのがその理由でした。私たちもそう教わってきました。
新型コロナの流行の過程で、ようやく効果が認められたというところです。現在では、WHOもCDC(米疾病対策センター)もマスクの効果を認めています。
ただし、私の見るところ、正しい使い方をしていない方もいるようです。話をしながらマスクの表面をしょっちゅう触っている人や、鼻の穴が出ている人がいます。正しく装着するというのも大事です。
手洗い
細菌の中でも、結核菌などは強固な細胞壁をもつため消毒や乾燥に対して強い抵抗を示します。石鹸で手洗いをしても、流れ去りはしますが、細菌自体は死滅しません。
新型コロナの場合は、インフルエンザウイルス同様、ウイルスがエンベロープという脂質にくるまれているだけです。したがって、石鹸で洗うと、この脂質が流れ去るので、ウイルスは裸の状態になり、容易に死滅します。エタノールによる消毒も同じ原理です。
しかし私のみるところ、多くの方が手洗いや消毒の仕方を間違っています
たとえばお店の入口で消毒液を手にとるものの、手のひらをちょっと重ね合わせている程度です。これでは手のひらのウイルスしか殺せません。
きちんと指と指の間、さらには手の甲も意識して欲しいものです。脂質を溶かすイメージです。
Column 検疫の歴史
水際対策で用いられる検疫についてお話しします。
検疫はイタリア語のQuarantena(クアランティン)、数字の40に由来します。
その昔、世界各地から財宝や食材を持って、船団がベニス港へ帰ってきました。この際、帰還者たちをそのまま陸にあげず、隔離という形で沖合に40日間停泊させました。
これは誰のためなのか?
帰還者のためではなく、港側にいる住民たちのためです。
もしも船員たちが何らかの感染症を罹っていたとしたら、40日間も経てば発症し、場合によっては死に至ります。そうなれば沖合で船ごと処分したというのが検疫の歴史です。
私たちはいつ、どんな原因で死ぬのかわかりませんから、新型コロナだけに注目してこれに振り回されるのは間違っているという考え方もあります。日本においては、新型コロナの流行にもかかわらず、年間の死者数に大きな増加はみられていません。だからここまで大騒ぎする必要はないとするものです。
今まで新型コロナにかかったことがなく、病気もほとんどしていない人にしてみれば、ワクチンを打ったために副反応で熱が出るかもしれません。前述のようにワクチンが人体にとっては異物である以上、副反応はゼロにはできないので、それがいやだと思うかもしれません。副反応の発生は極めて低い確率とはいえ、私が犠牲者の1人になりたくないという思いも湧くでしょう。私はそういう考え方を否定しません。
しかし、社会防衛という考え方も理解してください。
あなたが病気になると、あなたの家族が困る。あなたの職場でクラスターが起きると、あなたの同僚が困る。そういう考え方です。
集団単位で免疫力が高まることで、集団が守られ、結果としてその集団の構成要素である個人も守られるという考え方です。
なお、「様子見派」についてですが、既にイスラエルやアメリカなどの先行する国での成果が出揃いつつあるので、さらに日本の結果を待つまでもないように思います。
個人が十分な知識をもつこと、判断すること、そしてそれを社会が制度として支えることが重要になりますね。
ウイルスは、宿主に感染する際に、比較的高い確率で変異を起こすことが知られています。そのことで、ワクチンを接種していたとしても、人体の中で作られた免疫の監視の目を逃れ、攻撃を回避して増殖を続けることができるのです。したがって、当分は「ゼロコロナ」は難しいでしょう。
なお、ファイザー製のワクチンの元を開発したビオンテック社は、少し前に、「仮に変異が起こるとしても遺伝子の配列さえわかれば、(ワクチンとして)送り込む際の『暗号』を書き換えるだけでいいので、そう難しいことではない。」とコメントしています。
皆さんには新型コロナウイルスやワクチンのことを“生きた教材”として、暗記ではなく意味を理解しながら勉強してほしいです。
手洗いの話1つを取っても、意味がわかれば正しい手洗いができます。
薬学部の教育の中では、どうしても小分子の有機化合物とその合成の話が中心になりますが、今や薬と一言でいっても、今回の新型コロナワクチンのように遺伝子レベルでの開発になっていますね。
皆さんも抗体医薬、核酸医薬、標的蛋白質分解誘導薬などの言葉は聞いたことがあるでしょう。
今回の新型コロナとそのワクチン開発の話をきっかけにして「薬とは何か、どんな種類があるか、どう開発するのか、どこに働きかけてどう効くのか」などを自分なりに考え直して体系化し、勉強していただければ幸いです。
当記事は薬ゼミの薬学を楽しむきっかけマガジン「YAKUZEMI PLUS」No.55(2021 AUTUMN)P.32、33へ掲載した記事です。
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